「まだ、この近くに潜んでいるようです。」
たしぎが顔をあげた。
「行きましょう。」
たしぎは、ゾロの腕を取ると
導くように走り出した。
もう平気だってのに。
そう思いつつも、たしぎに導かれるままに
ついて行く。
走りながらも、たしぎはあれこれと口を出す。
「段差があります。気をつけて!」
わかってるって。
苦笑いしながらも、ゾロは黙っている。
「このあたりです。」
たしぎが立ち止まったのは、
街はずれの藪が生い茂った薄暗い雑木林だった。
「ロロノアは、ここにいてください。」
じっと見つめられ、ゾロは仕方なく頷いた。
ザザッ!
下草をかき分け、たしぎが進んで行く。
「ここに居ることはわかってます!
おとなしく、出てきなさい!そうすれば、手荒なまねはしません!」
この期におよんで、まだ説得かよ。
ゾロは腕を組んだまま、後ろで気配をうかがっていた。
ひゅっ!
いきなり、小石が飛んできて、たしぎの頬をかすめた。
身体を捻って避けると、飛んできた方向に、時雨の狙いを定める。
「隠れても無駄ですっ!」
バサバサッ!
枝を揺らし、上から黒い影が降って来た。
地面に着地すりると同時に、たしぎに体当たりを食わせようと突進してくる。
たしぎは、時雨を抜くと後ろに飛びずさった。
どんっ!
背中がゾロに当たり止まる。
「ロロノア!」
動かないでと言ったのに!
ゾロの心配をする暇もなく、
向かってくる男のナイフを叩き落した。
すかさず、時雨を男の喉もとにあてる。
みね打ちが効いたのか、
ぐうとうなったまま、男は動かなくなった。
ふっと息を吐いて、後ろにぴたりとくっついている
ゾロを振り返った。
「動かないでって、言ったのに!」
「あぁ、こっちもちょっとな。」
ゾロの足元に、もう一人、男が白目をむいて
転がっていた。
「・・・もう一人いたなんて・・・」
「大方、盗品を運ぶ手配をしてた奴だろ。
あの倉庫には、最初からいなかった。」
相手は一人ではなかった。
ゾロは、手早く二人を縛り上げると、その場に転がした。
「最初から気づいていたんですか?」
「いや、お前を後ろから、こいつが襲おうとしたから。」
目の前の相手しか、目に入らなかった。
「おい、アジトの方には、応援行ってるのか?」
ゾロに言われて、はっとする。
「まだです。すぐに呼びます。」
たしぎは、小電伝虫を取り出すと、急いで本部に連絡を入れた。
「はい・・・はい。よろしくお願いします。」
ガチャ。
電伝虫を切ると、ようやくゾロに向き直る。
「ここにも、応援を呼びました。あとは軍に任せておいて
大丈夫です。」
「そうだな。」
「・・・また、助けてもらいました。」
たしぎは俯いた。
「あぁ?だって、共同戦線だろ?」
「そうですけど・・・」
「それに、今日は、お前が、オレを手伝ったんだろ!」
にやりと笑って、人差し指をたしぎの鼻先に突き付ける。
「行くぞ。」
ゾロは、まだなにか言いたそうなたしぎを残して
歩き出した。
「あ、ちょっと、待ってください!」
たしぎは、慌てて後を追った。
*****
窃盗団のアジトに戻ると、すでに応援の海軍が
到着していた。
「研屋んとこの刀、ちゃんと返してやってくれな。」
ゾロは、建物の影で立ち止まると
来る途中、なかなか追いついてこなかったたしぎを振り返る。
「もちろんです。」
少し距離を取って立ち止まったたしぎは、
大きくうなずいた。
「ほら、お仲間が待ってるぞ。」
ゾロは、アジトの入り口付近を行き来する海兵たちを
顎で指し示した。
場所を譲るようにたしぎの背後に廻ったゾロは
そっとその場を離れた。
「これで、もう安心です。」
ほっとして後ろを振り返ったときには、
ゾロの姿はどこにも見えなった。
驚いて、あたりを見回す。
当然ですよね。
ここに居たら、捕まってしまう。
捕まるような人ではないけど・・・
お礼も言ってない・・・
自分のへそ曲がりが嫌になる。
目は、もう平気なんですか?
ちゃんと、医者に診てもらわないと・・・
次から次へと言葉が浮かんでは消えた。
「たしぎ大佐!」
部下に声で、我にかえった。
「賊の身柄の確保完了しましたか?
これから、盗品の刀を検分します。」
たしぎは、思いを振り払って
アジトの倉庫の入り口へと歩き出した。
*****
帰り道、急に黙り込みやがって。
最初の威勢の良さはどこにいったんだよ。
ゾロは、海兵の目を避けて街外れを歩いていた。
別に気にすることでもないだろうに・・・
頭をガリガリと掻く。
目潰しをくらったオレを
動けなくなるほど、心配したかと思えば
ほんの少しの助けに、意固地になる。
めんどくせぇ奴!
苛立ちの中のやり切れなさを認めまいと、ゾロは船に向かう歩を早める。
夜明け前に強くなった風が、やけに冷たかった。
<続>